1度の登山で7つもお楽しみがある山
前日の天気予報:てんくらC曇り 気温-3℃ 風速8m 眺望◎ 実際:快晴 5℃ 風速8m 眺望◎
私は目に焼けつくような純白の稜線が大好物。
千葉県在住なので、日帰りでこれを堪能できるとすれば谷川岳周辺になる。
たとえば三国山。
数年前に群馬県側から登り、山頂からさらに100mほど進んで
がつんっ!
とやられた。
真っ白な稜線が、びゅい~んと続いていたのだ。
うきうきで山頂に戻って脇道に100mほど入るとさらに
どかんっ!
とやられた。
若干ガスっていたものの、
谷川岳から仙ノ倉山の稜線が目の前にどどどどどーっ!と整列していたのだ。
片道2㎞強。
なんて費用対効果の高い山なんだ!
と即リピートリストに入れていた。
そんなある日。
山頂奥の真っ白稜線側から登るルートがある。
山頂の脇道をさらに進むとワラジカケマツノ頭という頂があり、
そこからの景色は絶叫クラス。
というマル秘情報を得た。
これは行かない訳にはいかない。
しかし、これには大きな2つのハードルがあった。
1.冬の谷川岳方面は吹雪くことが多く、快晴に恵まれるチャンスが少ない
2.今年は暖冬で雪が少ない(純白稜線になりにくい)
積雪が安定するのは毎年3月。
待って、待って3月中旬。
ついにときは来た。
快晴予報の土曜。
てんくらはC判定だが、それは午前9時の段階で風速14mだから。
一般的には強風だが、雪山では日常茶飯事。
20m以下ならGOだ!
8時6分、駐車場(無料・トイレ無し)に到着。
先行車5台。
あと5台くらいは停められそう。
辺りを見回してびっくり。
道路に雪がない!
3日くらい前にドカ雪が降ったはずだけど……。
この時点で気温4℃、風速7~8m。
これなら確かに山頂は15m前後のはず。
でも午後には半減する予報。
見上げると快晴ではないか。
期待しかない。
8時25分、登山開始。
国道17号を50mくらい歩いて登山道へイン!
不安だった積雪は50㎝前後。
意外にあるじゃん!
でも表面は結構硬い。
すぐに12本爪アイゼンを履く。
登山道は、ブナやダケカンバなど落葉樹の森の中に続いていた。
傾斜は中程度だが、九十九折なので辛くはない。
でも、一歩一歩が必ず5㎝前後沈むので面倒くさい。
アイゼン以上スノーシュー以下の積雪。
なので特に寄り道していないのに1時間で1㎞しか進まなかった。
しかもその間ずっと森の中で、周りの風景は30分前と同じ。
飽きるな~、とだらだら進むので余計に遅くなる。
この感覚、鹿俣山に似ている↓
あそこをちょっと急な傾斜にした感じ。
https://large-dog.iehikaku.com/archives/54
雰囲気が変化したのは1時間45分、1.4㎞進んだとき。
振り向くと、木立の間から横に連なる白銀の山々がちらほら。
その中にひと際目立つ純白の二等辺三角形があった。
デカい。白い。富士山?
でも、近過ぎるよね?
スマホアプリで調べると浅間山(2,568 m)だった。
周りの山たちも2,000mクラス。
でも明らかに格が違う。
500mの差は大きい。
元気づけられる。
2時間20分・2㎞ジャストで目的①の稜線に出た。
どわ~~っ!
想像以上の大展望。
さっきまでチラチラだった浅間山がハッキリ。
榛名山から赤城山、武尊山と続き、
間近に迫る谷川岳から仙ノ倉山へ続く山稜も。
どれも百名山クラス。
なんと贅沢な眺め。
ただし、谷川連峰の山頂付近だけは濃いガスの中。
ぶ厚い雲が龍のように激しくのたうっている。
天気予報では風速20m以上。
おそらく山頂は地獄のような状態だろう。
でも午後から急速に落ち着くはず。
わくわくしながら噂の雪の回廊を進む。
これがまた期待どおり。
紺碧の空の下、二車線道路並みに幅広い白銀回廊が一直線に続く。
進めば進むほど苗場山などを擁する三国山脈がずんずん迫ってくる。
断トツの白いのは上ノ倉山(2108m)か。
左手には白く輝く浅間山が十五夜の満月のようにずっとついて来る。
振り向けば谷川連峰のゴツい山容。
こんなに贅沢な気分に浸れる登山コースは、なかなかない。
ただ、2~3mに育った巨大雪庇も期待していたが50㎝程度だった。
暖冬のせいだろう。
それでも「登りコースが退屈でも結構!」と家族全員がご満悦。
この雪の回廊は450m続いた。
そして3時間15分・2.45㎞で三国山の山頂に到着。
ここは上ノ倉山から赤城山の南側方面しか視界が開けていない。
つまり谷川岳方面の眺望はゼロ。
なので眺望は稜線に出た場所の方が格段にいい。
記念撮影だけしてさっさとスルーし、目的②のワラジカケマツノ頭へ向かう。
前回は分岐点から100mくらい奥へ行った。
それでも明るく気持ちのいい稜線で谷川岳方面の大絶景を味わえた。
だたし、低木が邪魔だった。
それがワラジカケマツノ頭まで行けば360度の展望になるらしい。
三国山からの距離は500m。
往復だと1㎞。
さて、費用対効果は?
200mくらい進むと山頂が見えた。
マシュマロのように真っ白で滑らかな曲線を描いている。
あそこに立てるのか!
だが数十m先を見て愕然。
藪の中を一度下る模様。
これが崖のような傾斜。
しかも登り返しがきつそう。
そこから下ってくる人たちの背中が、斜面に張り付いているように見える。
でもここまで来たら行くしかない!
気合いを入れたが、意外に辛くはなかった。
下りもの登り返しも、そこそこ柔らかい雪面のおかげで足元がグリップして歩けた。
さらに元気を注入してくれる出来事が。
武尊山から谷川連峰のガスが晴れて、すべての山容がはっきり姿を現してきたのだ。
距離的には稜線に出た場所の方が近いはずなのに、こちらの方が大きく見える。
輪郭がはっきりしているからだろう。
3km・3時間40分で山頂に到着。
期待どおりの360度の大展望。
大暴れするガスでさっきまで隠れていた、
小出俣山から谷川岳、平標山につながる稜線もくっきり見えた。
右端から左端まで粉砂糖を隙間なく振りかけたように真っ白!
青空をバックにしているので、
「ここをこうやって、こうやって行けばあそこにつながるのか」
というラインが鮮明に浮き出ている。
これが見たくて今日のコースを選んだのです!
谷川岳方面。
仙ノ倉山・平標山方面
苗場スキー場も山頂から駐車場まではっきり見えた。
浅間山も相変わらず富士山並みの存在感。
山頂の気温は5℃。
風速は7~8m。
時々びゅーっと頬にぶち当たってくるが、気温が高いので耐えられないほどではない。
これで、てんくらC?
山頂では大ベテランと思われるグループがテーブルを広げて談笑していた。
そこからこんな声が。
「このエリアでこんな眺望のいい日はないよ。本当に来てよかったね」
耳がダンボに。うれしい!
その後、この方たちから
「ワンちゃんに触ってもいいですか?」
と声をかけられてしばらくお話をさせていただいた。
長野県から4時間以上かけて来たそうだ。
地元でいくらでもいい山があるのでは?
だが、越後方面のように雪山に囲まれる絶景スポットはない、とのこと。
そんな会話を弾ませていたら、山頂にあったイグルーから女性が出てきた。
イグルーとは、圧雪ブロックのシェルターだ。
ええ~、いらしたの!?
2時間かけて今作り終わったそうだ。
この方も犬好きで、泰楽をモフモフしていただいた。
泰楽は調子に乗って、彼女の太ももに頭をぐりぐりー!
気持ちいい景色。
気持ちいい人たち。
気分上々で昼食。
正面の谷川岳を見据えながら満腹になった。
結局、ワラジカケマツノ頭には1時間以上居座ってしまった。
帰りは三国権現経由で下りる予定。
この急斜面を今度は登るのか、と思うとちょっぴりブルーに。
私にとって急登の定義は、
「真正面を見たときに、空の面積が視界の3分の1以下になる斜面」
だ。
たとえば、巻機山や観音山の急斜面は、空の面積がゼロになるレベル↓
印象としては、坂ではなくよじ登る壁だ。
https://large-dog.iehikaku.com/archives/3871
一方で今回の傾斜は、空の面積がちょうど3分の1くらいだった。
なので自分的には急登だが、やはり柔らかい雪面のおかげで足元がグリップし、
距離も100mくらいだったので、それほど苦労することがなかった。
だがその後、この柔らかさに泣かされることになる。
三国山の頂から先も、かなりの傾斜。
前回はここでヒップそりを楽しんだが、今回は雪面が柔らかすぎてできそうにない。
しかも南面なので雪が解け始めて踏み抜く、踏み抜く。
3歩中1歩はズボっ!
深いのは股まで沈む。
下りだから体力的にはそれほど消耗しないが結構面倒。
このコースを登りに通らなくてよかったー。
とはいえ、コース自体のポテンシャルは大変高い。
三国山脈と向き合いながら進むので、
ずっとそのでっかい存在感を身体全体で受け止めることになる。
感覚的には映画館の大画面に飲み込まれていくよう。
あまりに山脈がでかくて近いので、遠近感がおかしくなっていく。
さらに左手には大御所感満載の浅間山。
嫁さんと泰楽は、ついに頭のネジが外れたようでジグザグに歩きはじめた。
気持ちはよく分かる。
私も泰楽と一緒に
「転んでもOK(むしろ転びたい)!」
とダッシュしてモフモフの雪面を楽しんだ。
途中に野球ができるほど広い雪原も登場。
泰楽が「ヒップそりを投げるなら今ですね!」と目を輝かせる。
そのとおり!
開放感。爽快感。充実感。
その後も踏み抜きに悩まされながら、
スノーシューに履き替えるのが面倒で国道17号に到着。
最後の丸太橋も無事渡れて今回の登山は終了。
6時間46分・5.6㎞の山行でした。
前回の三国山も「絶景」「手軽」で高評価だったが、
今回でさらにお気に入りランキングを上げた。
一般的な山は、急登の樹林帯を抜けて山頂で初めて満足感を得るケースが多い。
つまりお楽しみは1つだけ。
ところが三国山は
「キツくない」「稜線に出た瞬間に絶景」「雪の回廊」「ワラジカケマツノ頭へ行く途中も絶景」「ワラジカケマツノ頭は大絶景」「下りも絶景」。
オマケに気温が低ければ「ヒップそりもできる」。
7つもお楽しみがあるのだ。
こんなにお買い得な山は、なかなかない。
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