「岩の稜線」「ギザギザの岩稜」「3つの頂」と魅力満載!
2024年12月28日
毎年年末は雪山登山へ行くことにしている。
しかし今年は嫁さんの都合が合わない。
泰楽と二人で行こうか。
でも「高速代をかけて二人だけで楽しむなんてズルい」と言われるに決まっている。
諦めるつもりだったがなんかムズムズ――。
だったら地元の低山を登ろう。
せっかくなら雪山に匹敵するぐらい骨太の山がいい。
そこでずっと気になっていた千葉県富津市の小鋸山を登ることにした。
その名のとおり日本百低山に選定されている鋸山の脇にある山。
近年まで地味な存在だったが、山頂直下に広がる採石場跡地が異様なことから、
「房総グランドキャニオン」
と呼ばれて注目を集めるようになった。
また小鋸山へのルートは、ギザギザ岩の稜線でかなり手強いらしい。
稜線歩きは、場合によっては登頂より楽しい。
それに年末なら紅葉の有無も確認できるかもしれない。
ぜひこの機会に小鋸山をやっつけておこうというわけだ。
なお、小鋸山へ登る人の多くは、電車を利用して鋸山から縦走する。
しかし我々はワンコ連れで電車に乗れないし、鋸山から小鋸山へのルートは特に危険な稜線歩きとなるようだ。
だから県道34号近くの無料駐車場からスタートしてピストンすることにした。
登山口は館山自動車道の鋸南保田ICを出て5㎞くらいとかなり便利。
でもラスト数百mが分かりにくい。
すれ違い不可の狭い道。そのうえ間違ってYの字を右に行ったら、もっと細い九十九折の道路でUターンするまで背中に汗をどっとかいた。
8時20分、駐車場に到着。
5台くらい停められる空き地で、この時点ではわが車のみ。
8時33分、登山開始。
標高70m。気温7℃。
最初から化繊インサレーションを着る。
最後まで脱ぐことはなかった。
スタートから100mくらいで湧き水でドロドロ地帯があった。
迂回路は見当たらない。
結果として泰楽の足が田植え後のようになった……
帰りのことを想像するとかなり萎える。
さらに100mくらい進むと徒渉地点に。
やはり初心者には向かないコースかもしれない。
その後は段々畑の休耕地の脇を進む。
基本的に千葉県らしい濃い緑に囲まれるコース。
幅が広く、ピンクリボンもこれでもか!というくらい付いているので歩きやすい。
約600mで稜線に出た。
小保田峠だ。
足元は鹿の糞だらけ――。
だが、ここからは雰囲気が一変。
ゴールまでずっと稜線が続く。
しかも大好物の岩稜の明るい稜線。
常に風が吹く抜けて千葉県の低山ならではの湿気感はない。
そして所どころ両脇の樹木がなくなって左右の視界がスコーンと抜ける。
その先に見慣れないものがあるぞ。
なんだ?
海だ!
海の向こうには堂々とした富士山が!
いかにも千葉県らしい風景に思えるかもしれないが、実は登山でこの組み合わせを眺められるコースは少ない。
しかも富士山が期待以上に大きい!
視界に入った瞬間「どんっ!」という重低音が響いた。
一気にテンションアップ。
とはいえ、その眺望の良さは周囲の木々が倒れまくっているから。
おそらく2019年の台風15号の被害だ。
なので100%は喜べない。
それでも気分がいいコースということは間違いない。
ずっと大嫌いなアップダウンが続くが、ほとんどの間隔が短い。
10m登って10m下るって感じ。
だから辛さに気持ち良さが勝る。
右に富士山、左に小さい頃に絵本で見たのような里山。
千葉県の山としては理想の眺めではないでしょうか。
途中で両脇が低木で、錦秋の名残も感じさせるエリアも。
まるで日本庭園だ。
もうここで昼飯を食べて帰っても満足するだろう。
気づくと泰楽に向かってずっと「いいね~、いいね~」と話しかけていた。
ただ、紅葉する木は少ないようだ。
基本的には植林された杉系か、濃い緑のマテバシイ系だった。
しばらくすると、海の向こうに伊豆の山々も姿を現した。
進行方向を向くと鋸山がずっと見える。
小鋸山を越えて縦走する人は、ゴール地点が分かりやすくていいのではないでしょうか。
後半には今回最長で約50mの岩壁が登場。
難易度的には伊予ヶ岳の3分の1。
だからロープを握れない泰楽でも楽勝。
岩好きには物足りないだろう。
でも、伊予ヶ岳は1ヶ所のみだ。
ここには4~5ヶ所あるからアミューズメント感はこちらの方が上だ。
この辺りから前方に房総グランドキャニオンがチラチラと見えはじめた。
ただし、気になることも。
ここは気持ちい!と思える稜線の上に限って動物の糞がある。
大きさと形状は小型犬そっくり。
でも色が黒い。最初はたぬきかと思ったが、彼らは貯め糞をすると聞いた。
ならば猿?
とにかく絶景地点の狙い撃ちはやめていただきたい。
そして下り坂の森に入ると、この日はじめての登山者とすれ違った。
鋸山から縦走してきたそうだ。
「向こうも富士山どかーんでしたか?」
「いや、鋸山以外からはほとんど見えませんでした」
もしかしたら小保田峠付近の景色の方がいい?
森を抜けると、ぶわっと平原が広がった。
泰楽と目を合わせ、ニヤニヤしながら先に進むと――。
ついに房総グランドキャニオンが登場した!
巨大なナイフで横一文字にスパッと切ったような赤茶色の遺構が見渡す限り広がっている。
なるほどこれはグランドキャニオンだ。
90年代に本物を見ているので間違いない。
こんな風景は普通の登山では絶対に見ることができない。
しばらく風に吹かれながら眺める。
すると段々と周りを囲むクルマが通った形跡が気になりはじめた。
若干の工事現場感……。
「まぁ、まぁ千葉ですから」と小鋸山方面へ歩き出した。
そこでいきなり脇からさっと人が飛び出してきた。
えっ、どこから出てきたの!?
「白狐山から下ってきました。岩の痩せ尾根の連続で、狭いところは50㎝くらいしかありません。何度も尻もちをつきましたが楽しかったですよ。途中に展望台があって最高の眺めでした!」
そんな山があったの!?
その場でヤマレコマップを確認する。
現在地の50m右に頂があるようだが、登山コースとしては認めていないらしい。
岩の痩せ尾根大好物。
泰楽が無理ならUターンすればいい。
大至急、登山口を教えてもらったが、最初から40度くらいの傾斜。
1.5mくらいの垂直壁もあったので、ちょっとだけ泰楽のお尻を押す。
展望台は20~30m登った場所にあった。
そこから眺めは、間違いなく房総グランドキャニオンを見渡すには一番の場所だった。
方角、高さともに申し分なし。
小鋸山の手前にあるテーブルマウンテン(写真右上)の整ったシルエットも確認できた。
5~6人がテーブルの上に乗っている。
教えてもらった岩の痩せ尾根は、その先にあった。
たしかに先端は尖っていたが脇を歩くことができる。
写真映えするけど安全。
なんて親切!
楽しいじゃん!とニコニコしているうちに白狐山の頂に。
そこは立派な岩峰だった。
岩稜からつながる岩峰?
房総ジャンダルムではないか!
先月登った生瀬富士(茨城県)↓のスケール感には到底及ばないが、岩稜からつながる岩峰という必須条件は見事にクリアしている。
https://large-dog.iehikaku.com/archives/8550
しかも標高は206mと小鋸山(196m)より高く、山頂からは360度の大パノラマが広がっていた。
これは素晴らしい穴場を教えてもらった。
良かったね、泰楽!と話しかけたら、
「ボクちゃんの撮影タイムでは?」
といきなりぶりっ子をはじめた。
ついに自分がかわいく写る場所を見分けられるようになったようだ。
しかしながら、肝心の衣装がビリビリに破れてしまっていた。
その理由は岩ではなく小枝。
岩と岩の間に落葉した低木がたくさん生えているのだ。
白狐山を下りると5~6人の団体さんとすれ違った。
テーブルマウンテンの上に乗っていた人たちだ。
犬連れにびっくり仰天の様子。
「犬連れでテーブルマウンテンと小鋸山は登れますかね?」
「テーブルマウンテンは大丈夫だと思います。でも小鋸山は無理じゃないですか。山頂直下がゴジラの背中のような岩壁です」
ここまで来たら行ってみるしかない。
テーブルマウンテンに近づくと、おでこに手を当てて天を仰ぐようにしないと見えないほどの高さ。
これで大丈夫なの!?
でも実際は5m下まで林道のような歩きやすい道で行けて、サクっと登れた。
テーブルの上は10m四方くらいの広場だった。
眺めは展望台の方がいい。
一度登ればもういいかな。
テーブルマウンテンの奥の岩峰が小鋸山だ。
取り付くと早速壁のようなロープ場。
念のため泰楽のお尻を押したが、4WDの彼は余裕で登った。
だが、その先に今回最大の難関が。
1ヶ所トラバースする地点があるのだが、そこの足場の幅が20㎝もないのだ。
人間はロープを掴めるが泰楽は無理。
行くか戻るか悩むこと1分。
左手にロープ、右手にリードで慎重に一歩踏む出す。
すると泰楽は「お父しゃん、おっせー」とぴょんぴょんとついて来て私の太ももに頭突きをした。
さすが犬。
ここも余裕なんですね。
団体さんが心配していた最後のゴジラの背中も彼はジョギングをするように登っていった。
やはり犬の運動神経は半端ない。
そしてついに小鋸山に登頂!
そこでも360度の眺望が広がっていた。
ここまで3.5km・3時間40分だった。
かなり遅い。
写真を撮っていたからだ。
普通の人なら3時間もかからないはず。
楽しみにしていた富士山は雲隠れ。
雲がなければ富士山だけでなく伊豆や奥多摩の山々も望めるらしい。
帰りも岩の尾根歩きなので楽しかったが、アップダウンの連続なので疲労感は登りとほぼ同じだった。
最後にずっと気になっていたドロドロ地帯は泰楽を抱っこしてクリア。
でも体重30kgオーバーは腰にくる。
次回のために迂回路を探したが藪漕ぎ以外はなかった。
6.5km・6時間25分でゴール。
ずっと写真を撮っていたのでめちゃくちゃ遅い。
普通の人なら途中でご飯を食べても往復5時間前後だと思う。
・コースのほとんどが明るい岩の稜線
・白狐山、テーブルマウンテン、小鋸山の3つの頂を味わえる
・白狐山手前の岩稜は迫力満点
今回のコースは魅力満載だ。
個人的には高宕山を抜いて千葉県最高コースとなった。
ただし、次回以降は白狐山までかも。
小鋸山については、岩壁は泰楽は慣れているし、落ちても私が受け止めるので問題ないが、トラバースは危険だと感じた。
慣れの問題ではなく、足場が崩れたら終了だからだ。
それに眺望は白狐山とそんなに変わらないし、山頂直下の岩稜は白狐山の方が楽しい。
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