ことごとく淵が埋まっていた……。
水位:玉川0.67m
2022年7月下旬、中河内川(静岡県)を下ることにした。
8時14分にゴール予定地の西山橋に到着。
クルマからクルマ回収用の折りたたみ電動自転車を降ろす。
山側の森を見渡すとヤナギの木が多い。
ここは静岡、千葉にはほとんどいないヒラタクワガタの宝庫……。
ムズ、ムズ。
ムズ、ムズ。
大至急、クワガタ採り開始。
樹液ダクダクのヤナギ多数。
トータルでカブト3匹、コクワ1匹発見。
しかしヒラタはゼロ。
短パンで藪に突っ込んだのでスネが痛い&かゆい。
スタート地点は玉川中学校裏。
9時25分、気温28℃。出発。
しょっぱなから1級強の瀬。
真っすぐなので気持ちよくクリア。
水面の色はブルーグレイ。
透明度は3mくらいしかないが、泥臭さもコケ臭さもないので清潔感がある。
なので嫁さんがスタートして50mで飛び込みたいと言う。
前回この川を下った際、彼女は自ら飛び込んで岩にあばらを強打して骨折している。
なので断固却下。
基本的にこのコースは浅いのだ。
だが、今回はその後も心地よく進める小さめの瀬が続く。
前回水位が足りなくて歩いた玉川橋の下もなんとか通過。
前回との水位の差は5㎝だが、体感的には10㎝はある。
そして瀬がなく軽快な流れのエリアに突入。
嫁さんはにっこり微笑むと無言で飛び込んだ。
「お母しゃんが大変!」
と泰楽(ゴールデンドゥードル)も慌ててあとに続く。
船上にただ一人残ったぼく。
青い空、青い水面。気温は30℃近い。
これで「入るな」というのは拷問か……。
1㎞強進むと嫁さんの骨折現場(1級強の瀬)とその先のターザンロープの淵がある。
「思い切り夏を満喫してやる!」
と楽しみにしていた場所だ。
とりあえず瀬を越えて淵に入ってカヌーを係留。
嫁はダッシュで骨折の瀬へ向かう。
「リベンジのために再度身一つで流される」
と鼻息が荒い。
ぼくは慌てて
「流されるなら両足を下流に向けて」
と叫ぶ。
これなら岩に当たるのが足の裏になるのでケガをしない。
だが、それだとシュノーケリングができない。
嫁がブツクサ言い出したが断固強要した。
さらに泰楽もがっちりガードして泳ぐ。
またしても孤独になったぼく。
クーラーバックに入れてキンキンに冷やしておいたスーパードライのブルタブを引き起こす。
ぐい~~っとしたあとにターザンロープへ。
そこである異変に気づく。
「ロープの真下の水深が50㎝しかないぞ」
去年、家族全員で飛び込みを楽しんだ淵が砂利で埋まっていたのだ。
これではクロールで泳ぐことさえ難しい。
なので飛び込みは諦めてベルトコンベアーのように流されては歩いて戻る遊びを繰り返す。
ライフジャケットを着ているので、これはこれで楽しい。
そこから1㎞くらい先に釣り師が一人。
川幅が広いのでお互い邪魔にならない。
こちらが会釈をすると、「その先に堰堤があるぞ!」と叫んでくれた。
知ってはいたが、心遣いがうれしい。
その堰堤が実はやっかい。
数年前まで脇に魚道があってカヌーをさっと落とせたはずだが、大雨かなにかで破壊されてしまった。
なので右端から慎重に下ろす。
そして「やれやれ」と乗り込む。
水が澄んでいて爽快!
だが10秒後、なんともう一つ堰堤があるではないか!
「あれれ、そんな構造だったっけ!?」
幸い水の勢いが緩いのでそのまま突っ込む。
だがそれゆえテトラに引っかかって停止。
降りて引っ張る。
振り返ると真ん中に水の勢いが集中していた。
つまり右から入って真ん中から出るのが正解だった。
結構面倒くさい……。
しかし、その先は比較的のんびりした雰囲気に。
頭上に吊橋が現れる。
この橋はなんと軽自動車が通れる。
しかし、その先は比較的のんびりした雰囲気に。
頭上に吊橋が現れる。
この橋はなんと軽自動車が通れる!
ほっと一息ついたところで最後の難関。
橋の下に再度堰堤が出現した。
ここも魚道があったような記憶があるが今はない。
なので左端からカヌーを落とす。
そこからは本当にのんびりタイム。
河原にバーベキュー客が増え始め、ゆったりとした流れになる。
ゴール手前100mの落差1mの堰堤は右端の浅瀬から迂回。
最後は自分だけプカプカ浮きながらゴール。
1時間56分。5.7㎞の船旅でした。
水の透明度と水深のバランスから今回の水位くらいがベストかもしれない。
チャリは16分、4㎞でした。
そこから結構クルマを走らせて支流へ。
ここは1泊で行ける範囲内では一番のお気に入り。
なぜなら
「透明度10m以上」「飛び込みできる淵が3つ」「海パンでもぎりぎりOKの水温」
というパラダイスだから。
早速潜る。
目の前にチビアマゴの群れ。
幼過ぎて近づいてくるヤツもいる。
3m奥に20㎝強の大物も。
だがそいつは目が合うとダッシュで消えていった。
家族でグングン上流へシャワークライミング(沢登り)。
泰楽のリードはボールのおもちゃ。
これさえ見せれば釣られた魚のようについて来る。
1m以上の滝だって登っちゃう。
半径5㎞以内に他人の気配なし。
「やっぱここはいいなー!」
と辺りを見回すと突然
「どどどどどぉー!」
というなにかの足音。
「くっ熊のダッシュ!?」
背筋にぞっと冷たい感覚が走る。
音のした左方向を確認。
やはり川に迫る崖の上5mに獣がいた。
カモシカの子どもだ。
大きさはちょうど泰楽くらい(30kg)。
しかし、こちらを睨みつけ
「フゴフゴフゴォーー!」
と鼻息荒く威嚇してくる。
今までカモシカには数回対面しているが、みんなのんびりとこちらを眺めるといった様子だった。
気の荒いヤツもいるらしい。
でもチビカモシカなら怖くはない。
鬼滅の刃の伊之助を思い出す。
そして大至急、カメラを構える。
すると一目散に崖を登っていった。
そのとき嫁さんと泰楽は、残念ながら50mほど後ろにいて見ることができなかったそうだ。
得をした気分で1番目の淵に到着。
しかし、ここでも異変が。
水深2mほどあったはずなのに半分以上砂利で埋まっていたのだ。
これでは飛び込みができない。
「そんな、そんな……」
一年で一番の楽しみがなくなるかもしれない。
アウアウしながら2番目の淵へ。
そこも砂利だらけ……。
だが3番目の淵は一番深い。
2m50㎝はあったはず。
だからせめて2m弱は残っていてほしい。
↑去年の3番目の淵
たどり着くと、相変わらず青く透明な水面。
「頼む!」
と潜る。
水深1.5m……。
しかもその面積は畳一枚程度。
つまりそっとピンポイントで飛び込むことしかできない。
「なぜだ!」
「誰がぼくのパラダイスを壊した!」
そのときあることを思い出した。
それは7年前。
はじめて四国へ行き、四万十川を下ろうとしたときのこと。
自前のインフレータブルカヤックを炎天下で膨らませたところ爆発。
緊急対策としてカヤックをレンタルすることになった。
そのお店のオーナーが非常に気さくな方で四万十川について色々と教えてくれた。
この過程でぼくが
「手長エビを捕ってたらふく食べたい」
と目を輝かせると彼は、
「残念ながら手長エビはほとんどいないよ」
と申し訳なさそうにつぶやいた。
上流でがけ崩れが頻発して砂利が流れ出し、
エビの住処となる大き目の岩がみんな埋まってしまったそうだ。
確かにその晩罠を仕掛けたが1匹しか捕れなかった。
あの自然の宝庫と言われる四万十川でも7年前からその状態なのだから、おそらくこの川の上流でも同じことが起こっているのだろう。
やはりどこの山も手入れをされていないので保水力が足りないのだ。肩をがっくり落としてキャンプ地となる河原へ移動した。
その河原も行くたびに氾濫の跡が見える。
角のとがった大岩がゴロゴロしていて、年々クルマで入りにくくなっているのだ。
再度肩をがっくり落として薪拾いを開始すると、「とうちゃん手伝いますぜ」と泰楽が「お前が運ぶには長すぎるだろ」という薪を拾ってくれた。
その晩は目が潰れるほどの星空だった。
翌朝は6時半起床。
クワガタ採集用のランタンになぜか小さいセミが付いていた。
千葉にはいないヤツだ。
誰?
朝食はつぶあんのホットサンド。
青空を見上げながらゆっくり濃厚な甘さと香ばしさを楽しむ。
食べ終わったらウェットに着替える。
対岸でヒラタクワガタを採るためだ。
そこには樹液がダラダラのヤナギが10本前後並んでいた。
70mmクラスの大物が入りそうな洞もたくさんある。
期待大。
だが、成果は3㎝弱のウルトラチビのみ
気持ちを切り替えて昨日の清流のさらに上流へ。
デリカ駆動を4WDロックにして林道をグイグイ上がっていく。
そして3人で崖をオロオロ下りていくと……
期待以上の秘境感が連続していた。
大岩とコケのバランスが最高の日本庭園のようなエリアもあった。
かなりワクワク。
泰楽も絶好調でおもちゃを追いかけて滝登りをした。
しかし「こここそは!」と思えるような滝つぼでも浅い。
すべて砂利で埋まっている。
そしていよいよその原因を目にする。
幅80m、高さ50mに渡って崖が崩れていた。
これだけ大規模の崖崩れは初めて見た。
この規模なら恐ろしく大量の砂利が下流へ流れたはずだ。
しかもその上流でも小さな崖崩れが続いていた。
「だめだこりゃ」
また一つお気に入りの川が変わってしまった。
ここを見つけるまで5年を要している。
たぶん静岡県内をトータル2000㎞以上走ったはずだ。
もうこれ以上の秘境を探す気力はない。
もやもやを抱えつつ新東名高速道路へ向かった。
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