犬連れ登山「手軽な大展望とバリルートの孤独を痛感する」天羽城山(千葉県)

たった700mの道のりで富士山どーんっ!
2025年3月8日

ある日、インスタで「千葉県の山」と検索した。
すると、360度スコーンっと視界が突き抜ける山頂の画像が出てきた。
しかも笑顔の登山者の足元は、数十メートルの断崖絶壁

こんなに素晴らしい頂が千葉県にあるはずがない!

ところがどっこい、ありました。
その名はトビ岩山
鋸山のすぐ近くで、同座と同様に山頂からは大きな富士山も拝めるらしい。
まさに理想の山ではないか!
「千葉県でもっとも富士山が美しく見える山を見つける」
シリーズ第4弾が決定!

さらに調べると、近くにわずか20分で登れる天羽城山というところもあり、そこからの富士山も秀逸らしい。
そこで一般的にトビ岩山は物見塚山というところと縦走するようだが、今回は天羽城山と組み合わせることにした。
(なので第4弾は天羽城山で、5弾がトビ岩山です)

どちらにしても、バリエーションルート(上級コース)になる。
ちょうど前日に芥川賞作品の「バリ山行」を読み終えたばかり。
目をつぶれば、濃厚な森の緑がリアルに浮かび上がってくる。
登るなら明日しかない!

ただし、てんくらの見晴らし予報は△
富士山は期待できない。
それでもワクワクが止まらないので、「今回は下見」と自分に言い聞かせて出掛けることにした。

なお、バリルートなのでヤマップでもヤマレコでもルート設定はできない。
ただし、ヤマレコでは実際に歩いた人の軌跡を確認できるので、それを参考にすることにした。


8時24分、駐車スペースに到着(トイレ無し)。
ネット情報だとお寺の駐車場に停めているようだが、なんとなく申し訳ないので道路沿いの空きスペースに停める。


8時33分、登山開始。
気温4℃。無風。
てんくら予報は、12時の時点で気温5℃、風速6m。
15時から雨。
できるだけ早く下山したい。
まずは車道を歩いて、天羽城山登山口に向かう。


800m車道+400m農道を歩いて天羽城山登山口に到着。
イノシシ除けのゲートがある。
紐をほどいて入ろうとするが、ほどいても入れない! 
5分くらいアウアウする。
右往左往末、長―い鉄の棒を通した貫抜でもロックされていることが判明。
よほどイノシシ被害が深刻なのですね。
ちなみにこの近くにクルマを停めても構わないらしい(トイレ無し)。

山頂まではすぐ。
登山口から700mで登れてしまう。
この時点で標高30m。
約20分で百メートル近く上がることになる。


バリルートだと思っていたら、かなり丁寧に整備されていた。
10m間隔でリボンが設置されているので迷いようがない。

ルート自体は、千葉県ならではの緑と湿気が多い印象。
夏は近づきたくない。


しかしながら、クヌギが多い。
クワガタ好きの血が騒ぐ。
この時点で標高は80m。
場所柄も考慮すると、ヒラタクワガタとミヤマクワガタの境目だろう。
だが、ほとんどの樹木がナラ枯れで倒木寸前だった。
残念!


途中に一枚岩のお立ち台のような場所(勝手に第一展望台と命名)があった。
登るとマザー牧場などが見渡せた。
さぁーっと風が吹き抜けてほてりはじめた頬を冷やす。


ここからは大好物の岩稜が続いていた。
標高100m以下でこの迫力はうれしい。
その後、もう一ヶ所岩に登れる場所があった(第二展望台と命名)
山頂直下は急斜面のロープ場。


コースタイムどおり約20分で登頂。
そこはベンチとテーブルが設置された広場になっていた。
そして山頂標識の後ろからは東京湾が見渡せる。

L

その先にこんな感じで富士山が鎮座しているはずだが、天気予報どおり一切見えなかった。
とはいえ、たった20分で展望台2ヶ所とこの山頂なら、費用対効果は非常に高いといえる。
内房に海鮮を食べに来たついでや、鋸山に登って物足りないときなどに最適ではないだろうか。

さて、実はここからが今回の影のハイライトです――。
トビ岩山方面に向かうには、いったん第一展望台まで戻る。
そこに分岐点がある。


このルートもしっかり整備されていた。
リボンも多く、妖精も多い。


2019年の台風被害はすさまじく、倒木だらけ。
それらもほとんど切りそろえられて、むしろ日射しが届く明るいルートになっていた。


基本的には好みの稜線歩きだが、ところどころ落ち葉が20㎝くらい積もっている。
「ざ、ざ、ざ」という足音だけが山中に響く。
落ち葉に沈む足元を眺めながら、「バリ山行」の濃密な森を思い出していた。
ここまですれ違った人はゼロ。
バリをやる人は、この静けさを求めているのか――。


なんてちょっぴり男のロマンに浸りかけていたら、いつの間にか「巨石の森人」というエリアに入った。
妖精が登場した時点では、気持ち的にほっこり。
だが、ここが今回最大の困難地帯だった。

妖精に挨拶をして進行方向に身体を向けると、今まで10m間隔であったリボンが見当たらない
ならば、と踏み跡を探してきょろきょろ
ない……。

仕方がないのでスマホのヤマレコマップで軌跡を確認。
それに従って進む。


足元は杉(ヒノキ?)の葉が積み重なって不安定。
さらに落ちている小枝が、ツタの罠のように足をひっかけて5歩ごとにつんのめりそうになる。
「あ~っ、もう!」 

ちょっとイライラして声を出すと、泰楽が「何ごとですか?」と見上げる

すみません、すみません、とスマホの地図を確認。
「このまま、真っすぐだな」 
視線を画面から想定するルートに移す。
10m先に倒木があるから乗り越えて、その向こうは……。

見上げるような崖じゃん! 
ぜんぜん真っすぐ行けないじゃん! 
ならばどうする!? 
もしここで道に迷ったら?? 

ここでブルーになってはいかん!
目を見開いて周囲を見渡す。
崖の脇が通れる気がするので前進。
画面上の軌跡と自分の位置が重なる――。

ふ~っと息を吐き、泰楽と目を合わせる。
そんなことを3回ほど繰り返したとき、突然強烈な感覚を覚えた。
不安を超える孤独感だ。

普段の生活の中でも、仕事が途切れたり、家族以外の人としばらく会話をしていないと孤独を感じることはある。
だが、それとは違う強烈な孤独感に包まれた。

ぐんぐんのしかかってくるこの感覚を意識しながら、その理由を考えた。
山で独りぼっちになるのはいつものこと。
犬を連れていることに気を使いたくないので、高尾山や筑波山のような大人気の山に行かないようにしているからだ。
なので、ずっと独りになることがうれしいくらいだった。
でも、今はちっともワクワクしない――。


なぜだ?
杉林を見回す。
360度同じような風景――。

分かった、地面に踏み跡がないからだ!
山の中で人の踏み跡は、社会への導線だ。
これが見当たらない状態で、森をしばらく歩いた。
そのことで自分が社会から切り離された存在に思えてしまったのだ。

この感覚は日常で経験する疎外感に似た孤独感とは、明らかに違う。
自分には話しかけるべき、努力して関係を構築するべき相手が、もういないと考えてしまう、さらに強烈な孤独感だった。

小説「バリ山行」には、「その孤独を楽しむのが本物のバリルートだ」といった記述があった。
ならば私はちっともバリルートに向いていない。
しばらく進むと、左斜め前10mにリボンがぶら下がっていた。
だが、やっと見つけたリボンも「登山用ではなく、林業の人が何十年も前に結んだんだ」と後ろ向きな想像をしてしまう始末――。

いかん、いかんと風にそよぐリボンへ急ぐ。
するとその先にもリボンが揺れていた。
これは登山あるある。
コースに不安を覚えると視野が狭くなる。
そんなときは、あえてぐるっと周囲を見渡すと、意外にリボンが見つかるものだ。
特にこのときは、目安となる踏み跡がなかったので見つかりづらかったのだろう。

一安心して「泰楽あっちだ!」と声をかける。
彼は「やったね!」と笑顔で見上げた。
胸にほわっと暖かいものが広がった。

その後は森を抜けるまで、ずっと話しかけながら歩いた。
今までで一番犬と一緒に来てよかったと思えた。


杉林を抜けると、名前どおり巨石の森に入った。
苔むした2~3mの大岩がゴロゴロしている。
千葉県ではかなり珍しい風景だ。


「石切り場が近くにあるのか?」と考えていたら、本当にそんな広場に出た。
それを左側に見て先に進む。

だがこれが失敗。
軌跡の右側にどんどんズレていき、予定のルートに戻るために40度くらいの斜面を20mくらい登るはめになった。
おそらく広場を突っ切るのが正解だったと思う。


その後は、痩せ尾根のアップダウンが続く。
危険度は低いが、アスレチック感覚は小鋸山コースより上かもしれない。
ただし、途中の眺望は小鋸山の方が断然上
小鋸山の山行記録↓
https://large-dog.iehikaku.com/archives/8838


スタートして2.7kmで人里に出た。
ここからしばらく車道歩きとなるが、そこへの分岐点が非常に分かりにくい。
笹薮の中を100mも通り過ぎてしまった。
車道を約500mは歩けば、トビ岩山の登山口だ。

続く↓
https://large-dog.iehikaku.com/archives/9438

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