大力山の魅力を解説~2000m級にだって負けていない!
2025年2月15日 前日のてんくら予報:気温5℃・風速0m 見晴らし◎
雪山といったら新潟県だ。
とにかく雪が多い。
白銀が低木を覆い尽くし、ホイップクリームのように滑らかな稜線をこよなく愛する千葉県民としては、新潟県なのだ。
ところが今年(2025年)は微妙な年となった。
降雪日が多すぎて週末が晴れない。
12月の後半から狙い続けているのに、すでに2月の中盤になってしまった。
そんな2月15日、ついに晴れ予報となった。
しかも無風&ぽかぽかのハンパない登山日和。
狙うはお手軽にホイップ稜線と八海山、中ノ岳、越後駒ケ岳の大絶景が味わえる大力山(標高504m)。
今回2回目だが、前回の印象があまりにもナイスだった。
当日はウィンターパス(高速道路の割引)を利用するために、ひとつ前の六日町ICで降りる。
8時35分、駐車スペース着(トイレ無し)。
キャパ12台中11番目。
一都三県ナンバーは4分の1くらい。
ネット情報では、BS朝日「そこに山があるから」で紹介されてから登山者が増えたとあったが、まだまだ地元の人が多い。
用意をしていたら、すぐにご近所の方に声をかけられた。
柴犬を連れている。
「今から登るの? 前の犬のときは途中まで毎日登ったのよ。でもこの子は太り過ぎで登ろうとしないの(笑)」
「晴れるのをずっと待ってたんですよ。やっと登れます」
「そうね。きのうの朝も降って10㎝くらい積もったのよ。きょうは最高ね。ワンちゃんもがんばってね!」
この会話中も、クルマが続々と来て、10分くらいの間に3台路上駐車していた。
8時59分、登山開始。
気温0℃。無風。
街中なのに積雪がすでに2mくらいある。
登山道へも1mくらいの雪の壁を登らないと入れない。
これは期待通りのコンディションのようだ。
つぼ足で進む。
最初から中程度の傾斜なので楽ではない。
しかも、新雪のはずが表面がパリパリ、中はしっとりで重い。
まるで3月下旬の腐った雪だ。
たぶん、昨日の昼にいったん溶けて夜に凍ったのだろう。
歩きづらい。
開始2分で汗ばむ。
とはいえ、中傾斜は300m程しか続かない。
登山口から10分くらいで秋葉神社に到着。
登山の安全を祈願する。
この時点で背中は汗がしっとり。
大至急、ハードシェルを脱いでベースとミドルの2枚になる。
嫁さんはさらに脱いでベースレイヤーのみに。
そして二人ともスノーシューを履く。
さて、ここから先は、全部が全部真っ白な稜線歩きだ。
スタートからたった400m・15分でこのシチュエーション。
こんなに費用対効果の高いコースは、なかなかない。
2週間も雪が降り続いたので、トレースの有無を心配していたが、すでに20人くらい歩いているようで、バッチリ踏み固められていた。
それでも今年最初のスノーシューの「サク、サク、サクっ!」という雪を踏みしめる音を楽しみながら進む。
「楽しいぃー!」
ぐいぃーんと伸びる雪の稜線に目を凝らす。
「まぶしいぃー!」
ここでクルマにサングラスを忘れたことに気づく。
戻れば往復30分――。
仕方がないので吹雪用に常備しているゴーグルを装着する。
これで視界良好!
とご機嫌になったのもつかの間。
額に浮いた汗が目に入るくらい暑かったので、レンズが曇る曇る。
5分に1回、ミドルレイヤーの袖で拭き拭きしながら登った。
この真っ白稜線の傾斜は、山頂手前の休憩所まで緩急を繰り返す。
「緩」ではこんなに美しいパノラマが!
思わず写真を撮ってしまうが、それでは時間がもったいない。
この先にこの何倍も美しい撮影スポットがいくらでもあるからだ。
途中で一休みしているゴールデンレトリバーの女の子に出会った。
今回が雪山登山デビューとのこと。
最高の山・天気を選択しましたね。
休憩所につながる最後の登りは、なかなかキツい傾斜が100mくらい続く。
でも、いつもより息が上がらない。
なぜだ?
今シーズン3回目の雪山で鍛えられたか?
答えはピンっときた。
標高が低いからだ。
いつも1,500m前後から登りはじめる。
しかし、今回はこの時点で496m。
だから急登でも楽に感じられるのだろう。
低山バンザイ!
そんな調子でサクサク登って、東屋がある休憩所に到着。
ここまででスタートから2時間弱。
撮影などに時間をかけないで普通に登れば1時間半もかからないだろう。
それなのに、どうですかこの景色!
急な坂を登り切ると、いきなり雄々しい群峰がズドドドドンっ!と現れる。
右から八海山、中ノ岳、越後駒ケ岳。いわゆる「ハナコ」だ。
立ち止まって「うわ~、うわ~、うわ~っ」とつぶやいていたら、先に進んでいた嫁さんが、東屋の前で車座になっているおばちゃん、おじちゃんたちと談笑をはじめた。
「あれっ!? このワンちゃん見たことあるよ!」
「もしかして2年前もここでご飯を食べていましたか?」
「2年前だけじゃないよー。毎週食べてるよー。もしかして千葉から来たか?」
「そうです。2年前はいぶりがっこをいただきました!」
こちらの方々は小学校の同級生で70代後半。
10人以上で登山活動をしていて、冬場は毎週末5~6人で大力山に登っているそうだ。
「でも、最近はずっと雪が降っていたから2週間ぶりだよ。ほら、ワラビ食べな! ゼンマイも食べなっ!」
次から次へと煮物を差し出してくれた。
これはチャンスと大力山以外のおすすめの山を聞いてみた。
「守門岳も浅草岳もいいぞー。えっ冬か? ならここだ。御岳山もいいが低すぎる。やっぱり大力山だ。一番ハナコが綺麗に見える」
そういって、おばちゃんは豪快に笑った。
前回はビールの空き缶が並んでいたけど、今回はシラフのようでした。
するとずっと後ろで佇んでいたおじちゃんが声をかけてきた。
「ワンちゃん、東屋の中に入れないかな? かわいいと思うよ」
振り向くと一眼レフを抱えている。
宴会の次は撮影会
地元山岳会は毎回ここでUターンするそうだ。
おばちゃんたちは腰をあげると手づくりのワカンを取り出した。
登山口からすれ違う人の多くも、これを持参している。
「これか? 隣町のじいさんにつくってもらうんだ。2,500円。この辺では雪かきに使うからみんな持ってるぞ」
安っ! 趣味ではなく、生活必需品の価格ということだろう。
「では、来年もぜひ来てねー!」
お互いに手を船出のように振って別れた。
ちなみに大力山に登る人の8~9割は登山靴を履いていない。
ほとんどが長靴だ。
服装もジャージかGパン。
本当に地元に愛される里山なのね。
うらやましい――。
さて、我々は300m先の山頂へ向かう。
これだけの距離で標高差は10m程。
トレースはしっかりあるし、スキップでも行けそう。
山頂に大勢の人が集まっているのが見える。
その背後にはハナコ。
前進すればするほどビッグ3が迫ってくる。
無風・青空・白銀の群峰。
想像する美しい雪山風景そのものが目の前に広がっている。
タマラナイ。
登頂すると15人ほどが、思い思いの場所に座ってランチと絶景を楽しんでいた。
大人数でも30m四方くらいあるスペースなので気にならない。
ほとんどの人が希望の風景を堪能していたはず。
私たちも八海山、中ノ岳、越後駒ケ岳を正面にする場所で昼食を取ることにした。
雪に囲まれているのに日射しがぽかぽか。
ダウンを着こむことなく、時間を忘れて壮大な眺めを見入った。
お腹が満足したら山座同定の時間だ。
ハナコを正面に見て右に割引岳、平標山、苗場山、妙高山、黒姫山(柏崎)と続く。
そのすべてが真っ白で美しい!
特に八海山の、氷の塊をアイスピックで力一杯削ったような山容は一度視界に入ったら心を離さない。
「ほぉ~っ」と眺めていたら、手前の稜線が気になった。
あれはBS朝日「そこに山があるから」で金子貴俊さんが黒禿の頭へ向かったルートのはず。
いくらなんでもこんな雪深い日に行く人はいないよなぁ。
なんとなく目を凝らすと稜線にミシンの縫い目のような模様が。
「いくらなんでも、いくらなんでも」とミシンの縫い目を追う。
その先に3つの人影が!
ずげー、ツワモノだ。
温かいじゃがいもスープをちびちびやりつつ、その動きを注視する。
いったん、稜線の裏側に消えた。
2分後、戻ってきた。
断念したようだ。
やはり、きょうは雪の量が多すぎなのだろう。
嫁さんと泰楽も大絶景に酔ってしまったようで、一心不乱に20分くらいサツマイモの取り合いをしていた。
仲良くしなよー。
結局、50分も山頂を味わってしまった。
「先に進まなきゃ帰れない!」と自分に言い聞かせて立ち上がる。
とはいえ、個人的にはこれからがメインイベントだ。
1.5㎞に渡って、標高2000mオーバー級の白銀稜線を闊歩できるのだ。
しかも最初の300mは八海山へ向かっていく。
つまり、まだまだビッグ3を味わえる!
しかもしかも、楽ちんな下りのうえにモフモフの雪上なので転んでも平気。
トレース通りに歩いちゃもったいない!
全員がアルプスの少女ハイジ気分で駆け回る。
行く先はホイップクリームのように滑らかで真っ白な稜線。
その向こうにも白銀に輝く山々。
上空には碧空をバックに刷毛で描いたような白い雲。
白と碧だけの世界。
永遠にこの時間が続けばいいのに。
なんどそう思ったか。
嫁さんも夢見心地だったようで、片方のスノーシューが外れたまま数百m歩いていた。
拾ってくれた方、ありがとうございます!
長―い稜線歩きが終わると分岐点となっている。
左に進むとさらに続く稜線。
右に進むと車道につながる急な下り。
前回は右コースだったので、今回はぜひ左に行きたい。
だが、左のトレースはひとり分しかない。
その足跡を目で追う。
ちょうど小ピークに取り付いていた。
右側は雪崩の跡。
左側は切れ落ちている。
どうしますか?
見つめること30秒。
Uターンしてきた。
そうですよね。
我々もきっぱり諦めて右コース(写真左)に進んだ。
ここでハナコとはお別れ。
長い間ありがとうございました!
ここは適度な傾斜だったので今シーズン初のヒップソリも楽しめた。
顔面に雪粒がバシバシ当たるほどのスピード感。
思わず「ひゃっほーっ!」と声が出る。
半径400m誰もいないので許してください。
車道の手前では奇景も登場。
たぶん擁壁工事の途中。
ラスト600mは車道歩き。
地味に長い。
これが唯一の欠点かな。
思い切り遊んで、眺めて5時間10分・5.1㎞でゴール。
この時点で14時。
それなのに駐車スペースでは何人も出発の準備をしていた。
山頂までノンストップのピストンなら2時間強。
なので地元の人は午後からでも登るようだ。
その後、約10分移動して「見晴らしの湯こまみ」に浸かり、水の郷の天然水を汲んで帰宅した。
大力山の魅力とは?
大力山は標高504mの低山だ。
遠方の人は「わざわざそこまで行って登る気にはなれない」と思うかもしれない。
だが、山の楽しさは標高の高さに比例しないと思う。
例えば雪山初心者に人気の山として、入笠山(1,955m・南アルプス)と北横岳(2,480m・八ヶ岳)がある。
登頂の難易度(ヤマップのコース定数)は両方とも大力山と同等だ。
けれども楽しさは、あくまで主観だが大力山だって負けていない。
入笠山の眺望は八ヶ岳が丸見えだが、ちょっと遠くて迫力に欠ける。
北横岳については、もふもふの雪景色と八ヶ岳ブルーを求めるなら敵わない。
しかしながら微妙な差だが、大力山の「ハナコ」の大迫力と突き抜ける真っ白稜線の方に魅力を感じる。そもそも北横岳は犬連れ不可だ。
とはいえ、これは価値観やタイミングの話なので優越をつけることではない。
でも個人的には大力山の、ビジターもワンコもウェルカムな雰囲気も忘れられない。
ホント出会う人全員が温かい。
(実はほかにも3組くらいと会話しています)
だから「遠くの低山なんて登らない」という先入観で、大力山を選択肢に入れないのはもったいないと思う。
泰楽の登山ウェア(体重31kgのゴールデンドゥードル)
泰楽の雪山用ブーツ
泰楽の雪山用ゴーグル
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