急登に心が折れても登る価値あり!
2025年3月1日
前日のてんくら予報:気温-1℃・風速9m 見晴らし◎ 実際:気温2℃・風速0~2m 見晴らし◎
ここ数年、ずっと憧れている雪山がある。
新潟県の守門岳と阿寺山だ。
守門岳は、東洋一といわれる雪庇で知られる。
だが、千葉県からだと日帰りは無理なので踏ん切りがつかない。
(なぜ”世界一”ではなく”東洋一”なんだろう?)
阿寺山は藪山だが、積雪期はバックカントリースキーのゲレンデとして人気だ。
近年は、ホイップクリームのように滑らか稜線でつながる八海山の展望台としても知られるようになった。
ネックは急登。
どの登山記録を確認しても、「地獄のような直登&急登」という表現の連続。
新潟の山といえば昨年、巻機山の「井戸の壁」↓でコテンパンにやっつけられた。
あのクラスの急傾斜は、二度と登りたくない。
https://large-dog.iehikaku.com/archives/4270
ところが、そんな気持ちを知ってか知らずか、今年はインスタを開くと頻繁に阿寺山のホイップクリーム画像が出てくる。
明らかに大力山を上回る美しさ――。
生で味わいたい――
無理なら巻機山と同じようにUターンすればいいか!
そう自分に言い聞かせ、嫁さんと泰楽を説得して出掛けることにした。
ちょうど天気予報は今期最良クラスの快晴だ!
7時35分、駐車スペースに到着。
すでに路駐の嵐。
本来の駐車スペースは2ヶ所。
登山口に直結する奥の駐車場↑のキャパは、きっちり停めて17台。
50m手前のスペースは4~5台。
自分は38番目だった。
準備している最中にも3台路駐追加。
7時57分、登山開始。
標高380m。気温2℃。無風。
駐車場奥の雪の壁をよじ乗ってコースに入る。
積雪は3mくらいありそう。
それでもコースは締まっていて、つぼ足でも歩きやすい。
しばらく沢沿いの平坦な路を歩く。
日差しがさんさんと降り注いで清々しい。
スタートして900mで中程度の傾斜が現れる。
暑い!
背中に湿ったベースレイヤーが張り付いている。
ここでハードシェルを脱いで、アイゼンを装着する。
いよいよ急登か!?
と覚悟したら、10m上がっただけで今までと同じ平坦なコースに。
この時点で約1km。
今回のコースは片道4km。
山頂手前の広大な稜線を考慮すると、急登は2km程度か?
噂より難易度は低いかも!?
希望に胸を膨らましそうになっていると、正面にひと際デカくて白い山容が!
八海山だ。
同山はその後、ゴールまでずっと見守ってくれることになる。
58分(アイゼン休憩10分含む)・1.4kmでコースがブナの森の中へ。
こんどこそ急登か!?
だが、いつまで経っても傾斜は中程度。
しかも九十九折になっている。
要するに普通。
もしかして、自分の体力が上級になったからそう感じるだけ?
いやいや、そんなバカな!
それなら皆さん、なぜ騒ぐ?
木々に囲まれて、ちらちらと姿を見せる八海山以外、特に見どころがない登山道で、ずっとこの考えがループする。
そこにいきなり轟音が!
ゴゴゴゴゴーっ!
10m脇を大型ダンプが横切ったように腹筋に響く。
雪崩だ!
そう嫁さんと泰楽に叫んで周囲を見回す。
雪山登山歴11年。
今まで雪崩の跡は何度も見てきたが、雪崩そのものを目撃したことは一度もない。
胸の鼓動を感じつつ、木立の向こう200mの急斜面に目を凝らす。
所どころ塗装がはげ落ちたように茶色くなっているが、轟音の出所は分からなかった。
やはり、たまたまか。
そんなに簡単に雪崩を見ることなんてできるわけないよな。
気持ちをルート上に戻して進む。
ところがどっこい、ここでは雪崩なんて日常のようだ。
10分間隔で、ゴゴゴゴゴーっ!が谷間に響き渡る。
まるで線路沿いの安アパートに住んでいるような感覚になってくる。
そしてついに雪崩そのものを目撃した。
轟音が耳に入った瞬間に振り返ると、木々の隙間の先で、コロコロとした雪の塊が、谷間を流れる源流のように落下しているではないか!
流れの幅は数メートルだと思う。
見た目は「サラサラサラ~」といった軽やかな動き。
でも、そこから発する音は、大型ダンプがアクセルをベタ踏みした瞬間のように腹筋を叩き続ける。
やはり、豪雪地帯の気温2℃は危険なのか!?
急登より、こっちが心配になってきた。
スタートから2時間15分、2.3km。
10m前を歩く嫁さんが突然「うお~っ!」と叫んだ。
なになに?
コースがトラバースになって、開けた先のはるか向こうに大きな白銀の山塊がそびえていたのだ。

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黒姫山(柏崎)だ。
前回の大力山でも望めた山だが、こちらの方が近い。
調べるとこの山の標高は891mしかない。
なのにこの存在感。
やっと、視界が開けて少しだけ気分が上がる。
とはいえ、その先も基本的には森の中。
頻繁にアップルウォッチで進捗状況を確認する。
いつまで経ってもスタートから2km台。
なぜ進んでいない!?
これは登山あるある。
コースに飽きているから時間の経過が遅いのだろう。
それにしても急登はいつ始まる?
森の中といってもすべて落葉しているので、首筋には直射日光が当たる。
身体全体が熱も持ったようにほかほか。
グローブを脱ぐ。
3時間15分、2.9kmでついに急登が登場。
目に入った瞬間、視界がすべてこの壁で占められる。
体力を根こそぎ持っていかれそうな不安と、やっと登場してほっとした気持ちが入り混じる。
とはいえ、山頂まであと1㎞しかない。
ならば淡々と登るだけだ。
気合いを入れて一歩踏み出す。
ん?
二歩、三歩、四歩、五歩――。
予想よりキツくないじゃん。
平均傾斜は35度くらい。
スキー場の上級者コースと同じくらいだ。
見上げると真っ白でやや曲線を描く雪面と群青の空の境目がはっきり見える。
首が折れるほど見上げても空が見えない巻機山の「井戸の壁」と比べれば、ワンランク楽だ。
しかも、たっぷりの雪が適度に締まっているので、踏み抜くこともムーンウォークすることも井戸の壁よりは少ない。
えっちらおっちら200mほど登って群青の境目を超えた。
振り返ると、崖の上から見下ろすような傾斜でぞわっと背中に冷たいものが走った。
視線を前に戻すと、そこはやや広い雪原となっており、その先に第二の急登が――。
これが幅広く、樹木もまばら。
スキー場のようだ。
だからバックカントリースキーをする人が多いのか。
やれやれと取り付く。
ここは第一急登よりはいくらか楽だった。
傾斜は30度くらいか。
ただし、距離はやや長く250mくらいあった。
樹木が少なくて幅広いからだろうか、下山してくる人のほとんどがスノーシューを履いて、おのおのが自由に新雪の上を闊歩してくる。
そのうちの一人がこちらに向かって「すいませーん!」と叫んだ。
えっ!?と見上げる。
その距離50m。
彼の足元から直径15cmの雪玉が転がってきた。
縦回転を繰り返し、見る見るうちに消防車のホースを巻いていくように大きくなって泰楽の方に落ちていく。
直径50㎝に達し、もう2mに迫っている。
泰楽の性格は、筋金入りのおっとり系。
たぶん避けようとしない。
とっさに1m横っ飛びしてウエスタンラリア―トを繰り出した。
木っ端みじんに弾け飛ぶ雪だるま。
それを頭からモロに被って、自分が雪だるまのようになる泰楽。
落とした本人は何度も謝っていた。
スノーシューで新雪を下る際は、下から登ってくる人の位置に注意しなければならないことを学んだ。
第二急登の途中で、左側に八海山と滑らかな稜線でつながる五龍岳が姿を現した。
そこに向かう登山者が蟻の列のように見える。
この時点で11時50分。
あんな遠くまで行って、日帰りで戻って来られるのだろうか。
また右側には、がっちりと重厚でありながら清涼感も覚える巻機山が登場した。
期待していたより近い!
雪庇の陰影まではっきり確認できた。
第一急登200m、雪原50m、第二急登250m、合計500mを登り切ると、やっと森林限界を越えた稜線に出た。
どうですか、この純白と紺青のコントラスト。
色の編集無し!
CGではありませんよ!
ところが、ここで嫁さんの心がポキンっと折れた。
山頂まであと500m。
前半の300mは、この中程度の傾斜が続いている。
「まだ山頂見えないの!? もうここでUターンしてもいいよ!」
14時までに登頂できなければUターン、と約束して続行。
ただし、大幅にペースダウン。
とはいえ、景色は過去最高クラス。
水平線のように果てしなく広がる真っ白な稜線。
その境目から上は、CGで映し出したような完璧な群青の空。
左側には鋭く立ち上がる八海山、右側には白さ際立つ巻機山。
振り返れば魚沼盆地が広がっている。
これこそ夢で描いていた雪山登山の風景だ。
ところがさらに上質の展望が存在した。
中程度の傾斜を登り切ると景色が一変。
突然、阿寺山の頂が姿を現し、その左側後方に中ノ岳と越後駒ケ岳の雄姿が登場した。
これで「ハ(八海山)・ナ(中ノ岳)・コ(越後駒ケ岳)」が揃ったわけだ。
しかも、点々と立つ樹木のいくつかが雪でまん丸になっている。
これはタイミングさえ合えばスノーモンスターにも出会えるぞ。
山頂が目に入った瞬間の感想は、「うわ~、まだあんなに遠いのか!」
だが、山頂にいる人たちが下山を開始すると、あっという間にすれ違う。
どうやらあまりにも広くて白一色の世界の中で遠近感が狂ってしまったようだ。
今考えると、どこを向いても真っ白、真っ白、真っ白な大地。
だから、ふわふわと酔ったような感覚になっていたと思う。
50mはありそう、と思えた最後の登りも、実際は20m程度だった。
繰り返します。
どうですか、この景色!
これは過去最高の絶景です!!
4km・5時間15分で登頂。
登頂までの時間も過去最長だった。
でも、ふらふらだった嫁さんは、ここで一気に復活。
「巻機山から駒ケ岳まで稜線でつながってるよ!
これは登頂しないと見えない光景だね。Uターンしないで良かった~!」

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黒姫山(柏崎)から左に妙高山、苗場山。

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苗場山の手前には巻機山。
ここから長ーい稜線が始まる。

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長くまっ白な稜線が平が岳などを経由して、中ノ岳、越後駒ケ岳につながっていた。
つまり周囲240度は間近に名山が迫ってる。
なんですか、この極上空間は!
ほかに比べる場所を知らない。
山頂では二組から「ワンちゃんの写真を撮っていいですか?」と声を掛けられた。
一組は五龍岳の先まで行ってきたという。
「五龍まで登ると、その先の守門岳が見えます。
でも、ここのような囲まれ感はありません。
それにハナコを1枚の写真に収められる場所はここしかないんですよ。
だから、わざわざ戻ってきました」
もう一組もベテランさんだった。
「守門岳もいいよ~。でも見どころは雪庇だけ。周りにこんな大きな山はないんだ」
気温2℃、風速0~2m。
天気予報では風速9mだったので良い方に外れた。
ぽかぽか陽気の中、みんなで山話に花を咲かせてランチした。
私たちは中ノ岳を正面にハンバーガーとサツマイモを頬張る!
泰楽は食後のぽかぽかの日射しを浴びて居眠り。
でも、私たちに相手をしてほしいから、視界に入る場所でお座りの姿勢を崩さない。
「山じゃなくてボクちゃんを見て!」
14時、下山開始。
最初からスノーシューを履く。
新雪を踏みしめながらダッシュ。
サクサクっとした感触が気持ちいい!
わざと転ぶのも楽しい!
大雪原では泰楽とヒップソリを投げて遊びながら歩く。
登頂前はぐったりしていたのにめちゃめちゃ元気。
母親のテンションに合わせていただけ?
この「犬と一緒に遊びながら進む」という流れが、犬連れ登山ならではの魅力だ。
このときの一体感によって「おれたち家族なんだなぁ」という気持ちが湧いてくる。
第二急登からはヒップソリやり放題。
新雪は通常、お尻が沈んで滑れないが、ここでは急傾斜過ぎて落下するように楽しめた。
実際に1mくらい落下しても、モフモフの雪面がやさしく受け止めて、まったく痛くなかった。
下りのトレースは、段差が大きすぎてアイゼンだと歩きにくいはず。
トレースを気にしないスノーシューが最適。
ただし、それでも沈むので期待したほど早くは下りられなかった。
7.8km・8時間50分でゴール。
大菩薩嶺を上回る最長時間記録。
それでも嫁さんはまた来たいという。
私としては、急登よりも魔の2時間台地帯(退屈な前半)がネック。
真っ白稜線の絶景は過去最高だが、費用対効果は天狗岳(八ヶ岳)や大力山の方が上かな。
それでも次回登るなら、狙いはスノモンと五龍岳への稜線だな。
帰路沿いで湧き水が汲めました!
泰楽の登山ウェア(体重31kgのゴールデンドゥードル)
泰楽の雪山用ブーツ
泰楽の雪山用ゴーグル
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